我輩はジョルジュである

お嬢様

我輩はジョルジュである29 もうすぐ我輩は12年目の誕生日だという事だが人間にしてみたらもう随分な老年らしい。 しかし人間も長生きするようになっておるらしいし、我輩が連れて行かれる病院ではまだまだ長生きする同胞もいるとの事だ。我輩がどんな年月を…

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亡霊の肩代わりとは随分な言い草だ。余程に彼は里佳子さんこと姉貴に愛着があるのであろう。一緒に暮らそうとなった途端に亡霊になってしまったのが残念なのは解るが、今姉貴が一緒に暮らしているのは我輩であり愛されておるのも我輩だ。 「ハハ、君の気を悪…

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我輩としては姉貴と平和に暮らすのが何よりだと思ってをり、喧嘩するのが楽しいと云うのは一向に解せぬ所だ。例えマルが不幸な生い立ちであろうとも何かを恨んで喧嘩ばかりでは楽しくなかろう。況してや姉貴が何かを悔やんだり恨んだりする理由が思い付かぬ…

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「ああ、それは僕さ」 亡霊は欠伸をして云った。そしてイルザというのは姉貴が偶に観て居る悪趣味な制服物の女主人公の名であるとかだが、せめてもう少し趣味の良いコテハンとやらを名乗ればよかろうに。 「なに、里佳子さんには気に入って貰えているよ?そ…

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それは然し母君としては我が子が虐められていては助けに出るであろう。我輩を車道から連れ戻した母上と同じ事ではないか。 「へえ。ジョルジュは母親の事を覚えているのか」 「其れは当然だよ。マル君は覚えていないのかい?」 「猫である限りは猫から産まれ…

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解らぬのは死ぬと云う事に思える。 亡霊は姉貴に抱かれて死んだとの事だが其は本人の謂で本当だか如何だか我輩の知る所ではない。彼の先生やら村上某もまして里佳子というのもよく理解せずに居る。 我輩としては矢鱈と煙草は喫うし酒を飲んでは下手っぴな歌…

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亡霊の何とか云う板では素人の撮ったヴィデオも観る事が出来、国内だけで無く世界の同族の活躍も識る事が可能で中々に愉快だ。 「これも永久機関というやつなのかい?」 「永久機関だと!?何を云ってるんだ」 TVも姉貴のPCもコンセントから電力を得て働いて…

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虎の奴は実に横着で在り、偶に車停めから呼んでくるがその様な物、姉貴の部屋に居れば気付く事も出来るが父君とTVを観賞しておる時など聞こえやせぬ。況してラーメン屋の話で玉砕してからは業腹でもある。 亡霊も我輩には「才能が無い」とばかり笑うが何時か…

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亡霊君の教えで我輩もネットとやらに参入した。 何より読みたかつたのは姉貴が書いているブログという日記らしき代物であったが特に我輩への言及はなく概ね愚痴か自慢と読んだ。是を書く御本人は楽しかろうがうつかりとこんな物を読んでしまった何者かにとつ…

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「あの妹君はまぁ更年期障害か何かの口だろうから悪気はないだらう。只、里佳子さんへの嫉みもあって偉そうに云うのさ」 「嫉みとは一体何に嫉んで居られるのかよく解らぬ」 「そうだね、かの女がやってのけたいような事が里佳子さんにしか出来ないからじゃ…

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煙草というやつは、矢張り臭い。 父君は矢鱈と火を点けてはもみ消す、指幅2本分程より少し喫われておるかどうかでくしゃりだ。そしてご愛用の大きな灰皿が一杯になるとヴェランダの植木鉢に捨てられる。その事には母君も意見する。 「パパ、こんな所に吸い殻…

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暑くなって来る。我輩には初めての夏という体験なのであるが姉貴は愈々趣味の悪い、これは柄がなのであるがTシャツにちぐはぐな色模様のズボンを穿いて仕事に出、父君は肌の色も透けそうな白いTシャツにハイカラな柄ではあるがすててこを召されTVに不吉なも…

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「よし、この話でいこう。これは不気味だよ、君」 どの道我輩がどれ程怖い話をしてやった所でアニキは怖がるまい。怖くてもぞつとしても唯物論野郎の一言に決まってをる。唯心論でいるよか唯物論の方が上等であらうと思うが何にせよアニキとしては偉ぶってそ…

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「そしてこれがその時の様子を描いた里佳子さんの作品さ」 亡霊は四角い板のような物をちゃちゃっと撫でると斯様な画像を見せてくれた。然し作品は言い過ぎであらう。姉貴の読んでいる暴力漫画の方がこれならいっそ上等に見える。絵の拙さもであるがかの女は…

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摩耶観光ホテルには、未だ姉貴が学生だった頃『ハラハラ大集会・反日武装戦線狼を思い出せ!』というなんともおどろおどろしい会に出た時に知り合った松野君との山登りで出会う。 因みにその会に姉貴と松野君はバンド臨時要員として参加したのみで全く反日で…

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其にしても姉貴の部屋の混沌は偶に我輩に見せてくれる廃墟という奴の写真集を以ってして一種の趣味なのかとも思うのだが、しかしその廃墟という代物は人が住んでおらぬ。住めぬから廃墟なのであらうが姉貴の場合は住んでゐるのだから話が違う。時折母君が口…

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しかしマッキントッシュにせよ何にせよ、我輩が見る所、実に機械音痴の姉貴がよくそうした物を扱えるのが不思議だ。 「里佳子さんはその前に同じ店で宮本君という男の子と知り合っていてね、この彼がプログラマーとか何とかでかの女にPCを手解きしたのさ。家…

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「ハハハ、なる程、アニキ君家の須磨子さんというのはそりゃ奇妙だな!しかしまぁそんな物かも知れないよ。僕の先生は解釈の厄介な仏蘭西文学に尽いてよく独り言めく話掛けてくれたものさ。あと、心霊術や占星術にも凝っておられたから僕がこうして里佳子さ…

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亡霊の云う意地悪というのもよく解らぬが、意地が悪いのだから嫌われる元だろう。 確かにPCに向かって「馬鹿か」だの「ハハ、そんな事しかいえないかね」等と姉貴がにやにやとしている所などは底意地が悪そうだ、しかし通信でいくら喧嘩しようと勝ちも負けも…

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「どうして姉さんはそんな目に遭うんだろう。姉さんに目薬を注された時でも我輩は怖かったよ」 「ハハ、君はちょっとばかし怖がり過ぎだよ、でもまぁ怖がりが昂じて暴力を善しとする里佳子さんよりはいいけどね。あれは無茶だ。でもそういう所がかの女の独特…

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「早く帰ってこないからどうしたかと思ったよ?あれは友達?ガールフレンド?」 姉貴もあの白灰を女と思っておるようだが言うても解らぬことなので適当に答え飯の残りを食べた。 飯と云えば姉貴は家に居る時、料理というのをやる。凡そ我輩の口には合いそう…

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人間は精神だかが病む事があるらしくどこがどう痛むのかは解らぬが、姉貴は偶に仕事を休んだ。かといって大人しく寝て居るわけではなく何時もの休日のように母君の部屋でTVを観たりするのだが、これが普通の番組ではなくビデオという四角い箱に映画が入って…

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「君が母上に何も出来ないなんていう考えは愚かだよ。母上は君を愛しているのだから何もそれへの返礼など求めていないさ。そんな卑しい考えは愛じゃないさ。例えば今、里佳子さんが君に何かを求めてなどいないだろう?よくってたくさんご飯を食べて水を飲ん…

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姉貴は凡そ朝の8:15分辺りに「行ってきます」と出かけて行く。すると父君と母君が「いってらっしゃい」と応える。我輩はただ玄関で見送るだけであるが、この姉貴という女人が纏ってゐる衣装というのが実に奇妙だ。 父君が出掛ける時はスーツという常識的な出…

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斯くして我輩は姉貴が仕事を休みの時は昼間も散歩に出るようになった。 先ず顔見知りになったのは丸顔の虎、よもや亡霊君の言う稲荷神社の人気者ではなかろうと察したのは、かれが未だ若く何より男だったからである。顔だけで無く体も丸い。 「なんだ、お前…

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さて姉貴の狭く物が一杯の部屋に比べ、父君と過ごす居間は明るく快適でTVも観る事が出来る。 しかしそのTVの向こうには我輩が産まれた公園とよく似たものが見えるのだが、硝子で覆われているので父君にその硝子を何とか出来ないのかと声を出してみると「外か…

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「しかし里佳子さんも物を片付けるという気はさんさらなさそうだなぁ。」 姉貴(姉さんは似合わないので姉貴にする)が自分の部屋を出入りするにも上手くないのは物が沢山あるからだ。その折我輩が横になって居った硬い生地のズボンも昨夜脱いでベッドの上に放…

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この家は広いようで狭い。 当初「そのようなものは自分の部屋で飼え」という女の割には矢鱈と態度も見た目も大きい姉さんの妹という奴が我輩を敵視し、姉さんはそのようにしておったがこの部屋というのが洋間6畳の上に恐ろしく散らかってをる。それはそれで…

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我輩はジョルジュである。仏蘭西の哲学者であるとか伊太利の洋服屋の名であるとかのことであるが、そのような哲学とあまり縁がなさそうであるし服なぞ一向着る事がない。 緑地公園で兄弟と保護され、妙見山にある猫の大勢住まわる邸宅にて兄貴と遊んでいる所…