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 斯くして我輩は姉貴が仕事を休みの時は昼間も散歩に出るようになった。
 先ず顔見知りになったのは丸顔の虎、よもや亡霊君の言う稲荷神社の人気者ではなかろうと察したのは、かれが未だ若く何より男だったからである。顔だけで無く体も丸い。
 「なんだ、お前男か!ちらちらと見受ける内、これは美形かと思ったんだけどな。下らねえ。」
 ちらちらと、と言うのは我輩がヴェランダから眺める中によく彼は登場し、大声をかけてきた事もあった。我輩は取り敢えずは姉貴の家の者として声など出さなかったが。
 「我輩はジョルジュである。男であるし美形かも知れないが、それがどうして下らないんだい?君こそ何処の誰なんだい?」
 「俺は男前を褒められる、虎のバッキーよ。そこの上の中野さん家では誰よりも偉いぜ。お前はあの2階に暮らしているのか?それにしても変な名前だなぁ?何と言った?」
 「ジョルジュ」
 「ジョウジ?」
 「ジョルジュだよ」
 「ジャージみたいな名前だな。これから俺はお前を白黒と呼んでやるからそっちは俺を兄貴と呼ぶがいいさ。」
 ジャージとはまたお話にならない考えの持ち主のようなのでそれならいっそ白黒がよかろう。しかし我輩には仲の良かった兄貴が居るのでこのがらっぱちな虎君を兄貴とはあまり呼びたくないものである。そう申すと
 「俺はお前より偉いから兄貴が相当だろう。然様呼べばこの男前の弟分として恰好もつくぜ。」

 さてそのアニキ(兄貴はいやなので片仮名で表記する)が男前を主張するには理由があつて、なかなかに洒落た黒斑の小柄な女友達が自慢だ。我輩がヴェランダに居ると下方公園の草地にその女友達を連れて2人で楽し気に笑ってみせたりする。
 成る程、可愛らしい友人があるのは結構であるが、我輩としてはアニキとの社交に精一杯という所だ。