.26

 「ああ、それは僕さ」
 亡霊は欠伸をして云った。そしてイルザというのは姉貴が偶に観て居る悪趣味な制服物の女主人公の名であるとかだが、せめてもう少し趣味の良いコテハンとやらを名乗ればよかろうに。
 「なに、里佳子さんには気に入って貰えているよ?それがこの僕だと知らしめられぬ所が残念だが」
 「それで君もちゃねらとして暴れておられるのかい?」
 「と、言うかね、先生の所では色々学んだが、事件がなかったという話を此間したろう?それに比べて里佳子さんは思いも尽かない事件ばかりだ。そこが面白いし某ちゃんねるに挑むに於いて実に勤勉だ」
 仕事もよくサボれば悪趣味なビデオとやらを観、煙草を喫い酒を飲んでゐる姉貴に勤勉とは似合わぬ。況してその勤勉の結果が禿呼ばわりでは愈々納得のいかぬ所である、確かに姉貴の出で立ちは趣味が悪いが禿ではない。
 「否、禿でいいんだよ。里佳子さんは特定のスレに入る前、予め其処の空気を見て反撃の準備をされて後じわじわと横入りして行くから爺だの禿だのの罵詈を受けるが其こそかの女の思う壺さ」
 「どこが思う壺なんだい、失礼じゃないか」
 「ハハハ、ネットの中に居る里佳子さんは、まぁ要らざる喧嘩をして居られる訳ではあるけれどそこでかの女が優しい善い人では喧嘩にならぬ。だから予め民法だの刑法だのを準備してそうっと入って行く。このそうっと入って行くのも中々のものだよ。僕もかの女を見付けるのにちょいと苦労した程だ」
 しかしアニキん家の大学生にすら見付けられてしまって居っては大した変装術でもあるまい。況して斯様な戦場めいた所にアニキは兎も角、我輩を連れ込まれては大いに迷惑である。我輩は喧嘩などしたくはない所だ。
 「それは杞憂という物さ。それに今はイルザが居るからね」
 何がイルザだ。