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 我輩はジョルジュである。仏蘭西の哲学者であるとか伊太利の洋服屋の名であるとかのことであるが、そのような哲学とあまり縁がなさそうであるし服なぞ一向着る事がない。
 緑地公園で兄弟と保護され、妙見山にある猫の大勢住まわる邸宅にて兄貴と遊んでいる所、ある日突然宅の夫人から持ち上げられ1階の広間にそっと置かれた。
 我輩が食卓の下に逃げると夫人は其処に居た薄汚い出で立ちのなんだか可笑し気な見慣れぬ人に言うた。
「ほら、この子は懐きませんよ?この波斯の女の子はいい子です。少し大きいですが。」
「いえ、この子がいいのです。」
「でしたら…洗濯網に入れますから、そのリュックに?あと、初回のワクチンを施しておりますから5千円お願ひします。」
「5千円ですか!ちょっと見てみます。」
 後々知った事ではあるが、この可笑し気な様子の見知らぬ人間の様ないい年をしたものが5千円もあるかなきかという事で当惑するとはなかなか有り得ざる経済状態と知ったが、それはたまたまの事のようで「お金が要るなら要ると‥」とぶつくさ言うておるのを我輩は聞く。

 して兄貴と離れてしまったものの、この奇態な人物はあの邸宅の夫人と同じく女性であるようで実に親切にリターボクスも美味しい飯も水も世話してくれるので好きになった。
 あと、声の悪い男性も我輩を気に入ったようで、ジョルジュとはジョルジュ・アルマーニだと決めつけたが、姉さん、そう奇態な人物は自分をそのように自称するのでそのような名なのかと思えばそれはどうも厚かましい自称のようであるが、かの女はそういう時笑うばかり。どうやら声の大きい男性は父親のようであり、その死別にえらく落胆の様子である。

 その姉さんと我輩はもう7年を過ごしておるが、えらく愛玩の様子かと思うと呼べども答えぬ事もあり猫族より余程に我侭な存在だ。