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 其にしても姉貴の部屋の混沌は偶に我輩に見せてくれる廃墟という奴の写真集を以ってして一種の趣味なのかとも思うのだが、しかしその廃墟という代物は人が住んでおらぬ。住めぬから廃墟なのであらうが姉貴の場合は住んでゐるのだから話が違う。時折母君が口を出す。
 「片付けなさい!パパもあのルンペン小屋って言ってるわよ?」
 と、父君の代弁を買って出る。しかしパパやママとはジョルジュより安直な名であると面白く感じるが、何せ姉貴はパパたる父君の仰せになら積極的に従うのかというとそうでもない。益してや代弁とあっては簡単にママたる母君をあしらう。
 「みーちゃんも可哀そうじゃないの‥ねぇ、みーちゃん?」
 今度は我輩の代弁の心算であろうか。特に意見は無いので黙っておった。

 「里佳子さんはあれで中々の冒険家だよ」
 澄まして云う亡霊であるが、彼こそなかなかの廃墟っぷりだ。だいたい冒険家である事と部屋が混沌としてをるのと何の由縁も思い付かぬ。若しかしてかの女の奇態な服装を云うのか。
 「僕は仕方無いさ。死んだ時の儘の姿だ。その死んだ僕を里佳子さんは土に埋めるではなくちゃんと焼いてくれ谷の上からそれを撒いてくれた。あれも冒険であったらうと思うし、廃墟探検された事とてあるんだよ?君が今開いて居るその頁。摩耶観光ホテルに。あと君はかの女の服装に批判的だけどいいじゃないか」
 いいじゃないかと言われても我輩には女人の服装に其れなりの考えもありいま一つ何とかして欲しい。まぁ、何時か慣れるかも知れぬ。
 「冒険も何も姉貴の部屋が余程に冒険だ。我輩がちょっと運動しただけで本やらが落ちてくる。CDも落ちてくる」
 「それはまあ里佳子さんが片付けないからだけど、君も然様な所で活動しなけりやいいだけじゃないか‥そんな事よりかの女の冒険は命賭けだ。例えばその摩耶観光ホテル…」
 何だか亡霊の口調が怖い話をするアニキに似て来た。
 アニキが怖い怖いというのは亡霊であったり謎の世界。若し我輩の先輩たる亡霊による廃墟への命賭ける冒険の話を聞いたら、奴め、どれだけ怖がるであろう…斯様思うとこちらからも怖い話の返礼をしてやれそうで愉快にも思うが、アニキから怖い話好きの須磨子嬢には喋れぬのだからちと気の毒か。
 どうせ我輩の話など唯物論野郎で片付けられそうでもある。