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 さて姉貴の狭く物が一杯の部屋に比べ、父君と過ごす居間は明るく快適でTVも観る事が出来る。
 しかしそのTVの向こうには我輩が産まれた公園とよく似たものが見えるのだが、硝子で覆われているので父君にその硝子を何とか出来ないのかと声を出してみると「外か?」と低い声で応えるや何時も座って居られるソファから態々やって来、硝子を退けた。すると姉貴も父君も煙草を呑むのでその臭いが最早宿命かと思っておったが、よい空気が嗅げる。中に比べると暑いとはいえ余程に快適でありそれに散歩出来る床もあり出るなとは言われなかったので出てみると懐かしの公園如きものもあるし、何処まで如何行けばは解らぬがいろいろな物が見えた。
 我々猫族はさして物がよくは見えやしないのではあるけれど、然し空気が動き音がするのを観察するには充分だ。硝子の外の庭を探検した所、ここから地面は少し遠いようだが行けない事もなさそうである。
 その上、なんとこれは亡霊ではない同族も見受けられた。公園では母と兄貴で集っておったが其処から移動した猫の多い邸宅では色々赫々の観察をしておったので、それが亡霊ではない同族と判断したのであるが行き成り話かけようにもその考えがない。

 而して我輩は外に出たいと思う様になったがご飯は外にはなかろう。また出たはよいが帰って来れなくてはこれも厄介、我輩は煙草臭いが姉貴の事を気に入っておったしその部屋も、たまに顕るる亡霊も良い先輩であるから捨て難い。
 そこで外に出ては帰って来る姉貴が帰って来た折その主張をしてみようと考えた。出る時は駄目だ。我輩が折角「早く帰ってくるように」と靴を履くかの女に近寄ると「駄目ゞジョルジュはお留守番、ばいばい」と睨んでみせるが、帰って来た折はその足音で判明するので戸口迄出迎えておると抱き上げてくれるし御機嫌麗しい。
 ある夕、何時もより早いご帰還、そこで姉貴が開けたドアに向かって進んでみた。
 「なに!ジョルジュ!お外は危ないよ!」
 そう言いつつも姉貴はドアに何やらを挟む工夫をし、我輩が進むにまかせてくれたのである。豪気といえば豪気なものだ。

 邸宅は2階というものがあり階段にて移動する楽しみがあったが、姉貴の家は何階かある建物の2階にのみ空間がとられておるアパートメントという設え。よってドアから出て続く廊下は何処かで地表に降りる階段がある筈だ。
 何やら陰気な廊下である。何度も振り返り、ドアが開いて居るのを確かめながらそれでも行軍するや階段はあつさりと目の前に披けた。こうなっては我慢が出来ずとっとと下へ向かうとそこは無味乾燥な地表でやたらと車がある。少し探検してみると、姉貴の匂いがするので駆け寄るや車に比べ何とも安っぽい二輪の番われた乗り物らしきものがあった。
 何やら物寂しい想ひに捕らわれ、我輩は来たやうに戻り、ドアを入り一声上げて帰還を告げる。
 「おかえり、ジョルジュ」
 姉貴が抱き上げてくれ嬉しかったものの、少々ひやひやとした