「よし、この話でいこう。これは不気味だよ、君」
どの道我輩がどれ程怖い話をしてやった所でアニキは怖がるまい。怖くてもぞつとしても唯物論野郎の一言に決まってをる。唯心論でいるよか唯物論の方が上等であらうと思うが何にせよアニキとしては偉ぶってそれで気が済むならそれで平穏というものだ。
さて亡霊君の見せてくれた頁はこういうものだが面倒なので概略のみ書くとする。詳しくはリンク先とやらにあるし詳しい。
山奥のラーメン屋
http://gyakunichiyomimono.web.fc2.com/h1632.htm
ドライブをして居たアベツクが道に迷って変なラーメン屋に辿りつくもそこは怖い所であると後々助けてくれた族車(不良車の謂)の運転手の話で知る。
「よし、この話の怖い所は満員のラーメン屋で誰もラーメンを食べていないという所だね」
「違うだろう!ラーメン屋の客は魂を奪われた者達で、このアベツクも危うくそうなりそうだったという話じゃないか!全く君に係っては怖い話も何もあったもんじゃないなあ」
「そんな事は書かれておらぬ様に思うが」
「書いてあるだろう!族車の男が親切に語っている。君は凡そ怪談(怖い話の謂らしい)の才能が無いなあ、怪談話のミソは前振りと行間にあるんだ。そして落ちでぞっとさせる。だのにそんなラーメン屋の客がラーメンを食べてないというのは前振りもいい所じゃないか!」
実際、我輩としては山奥のラーメン屋で客がラーメンを食うておらうがおるまいが怪談の才能が有らうが無かろうが痛くも痒くもないのであるが亡霊君から熱心なご教示を頂いたからにはアニキをここは一つ怖がらせてやらうと外に出た。上手い具合に奴はぼんやりと横になって居る。
「アニキ、今日は我輩からぞつとする話がしたいんだが」
「けっ、唯物白黒にどんな話が出来るか聞いてやらうじゃないか」
さう言いつつもアニキは興味深気に体を起こした。
「山奥をドライブしていたアベツクが道に迷った所、灯りが見えて」
「ラーメン屋の話かよ!そんなのこちとら承知よ!それより呪われた1軒屋の話をしてやろう」
是をして玉砕と謂うのやも知れぬ。我輩の話は前振りも行間も落ちも一蹴されアニキのこれがまた奇妙で面白い話を聞く事になった。亡霊君は怖い話を怪談と謂うと話しておったがアニキの話は到底怖くないので怪談と云うより一席の噺といった所か。しかし語る御本人は存分に怖がらせやうとして居る辺が益々面白い。面白がっては失礼で有るから此方は社交辞令もあり神妙に此方も怖がってみせる。
「それでその女子はそれ以来真面に喋れぬ有様よ」
「其は怖いね、その家には余程の病原菌があった訳か」
「馬鹿野郎、その子だけが鏡台の引き出しを開けただろうが!呪われたんだよ!これだから唯物論野郎は話にならねえ」
矢張り結局は唯物論野郎である。