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 「どうして姉さんはそんな目に遭うんだろう。姉さんに目薬を注された時でも我輩は怖かったよ」
 「ハハ、君はちょっとばかし怖がり過ぎだよ、でもまぁ怖がりが昂じて暴力を善しとする里佳子さんよりはいいけどね。あれは無茶だ。でもそういう所がかの女の独特な所で周囲から変に思われ、そして嫌われる。例え100人の人間が居ったとして里佳子さんを好きになるような奇特な人間は10人と居ないだろう」
 そうだろうか?我輩にしてみればこの家の誰よりもいい人間のように思う。確かに社交は少ないが姉貴には必要なだけの社交をしてそれで奇矯な出で立ちであれ社会に出て行けて居るのならたいしたものではないかと思う。それともやはり変人の嫌われなのであろうか。アニキが白灰に怒鳴ったように姉貴も誰かに怒鳴られているのだろうか?
 「幸いというか里佳子さんを嫌う輩はかの女を怒鳴ったりしないよ。ただ困惑するんだ、何を怒鳴っていいかも解らない。ただ不愉快なのかも知れない。何故かって云うとね、里佳子さんは他人を心底理解しない、その癖、理解したふりをする。かの女は自分の事が大事過ぎて他人を慮っているには忙し過ぎるのさ!」
 「じゃあ君はなんで姉さんさんの傍にいるんだい?猫だから善いって訳かい?我輩は姉さんが世界の概ねから嫌われていると聞いても御本人は辛そうじゃないからそれでいいと思うがね」
 「それだよ。そこが里佳子さんの善い所さ、かの女は他人の事なんてどうでもいい、それにそんなかの女の資質に惹かれる100人中の10人が熱烈に恋をするからそれで里佳子さんは充分なのさ。かの女を嫌う、それも徹底的に嫌う90人の事なんてどうでもいい、寧ろ馬鹿にするだけだ。神経やら精神を病んでいると云われ、薬物を処方されようともかの女としては仕事をさぼるいい理由としか思うてないし、実は酷い目に遭っているわけでもない。だから遊んでいるだろう?それにかの女は他人を理解しないものの読んではゐる、即ちその他人の心底の底迄は理解しないが、その他人が語っている自分という物は読んでゐる。だから揄ってみたり意地悪をしたりする。」