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 亡霊の云う意地悪というのもよく解らぬが、意地が悪いのだから嫌われる元だろう。
 確かにPCに向かって「馬鹿か」だの「ハハ、そんな事しかいえないかね」等と姉貴がにやにやとしている所などは底意地が悪そうだ、しかし通信でいくら喧嘩しようと勝ちも負けもなかろうし現実では何処の誰とも知れぬ輩を相手に真剣にやってをられるとは思えぬ。
 アニキに会ったので話してみた。
 「はは、お前んちの姉貴はチャネラだな。」
 「ちゃねら?」
 「某チャンネルという掲示板があってだな、そこでは色んな事を題目に沿って好き勝手に書き込むんだがたまに荒らしというのが出て来る。題目に沿っているフリをしてそれを間に受けたやつに全く異質な意見を持ち出すんだが、同意している振りをして何時の間にか題目を皮肉るような事を書いてはそれに対抗するのと喧嘩して面白がっているのが荒らしよ。こりゃ面白い!家の啓介はいつも途中退場よ。馬鹿だからな。お前の姉貴は余程冴えているんだろうよ、好きにさせとけ。啓介なんぞ本当に役立たずの大学生さ。」
 大学生ときた。姉貴の年齢ならそれ位の子供が居ってもおかしくない。姉貴は子供を遣り込めて笑っているとしたら冴えている所か弱い物虐めではないか。
 「しかし姉貴がチャネラとしたらお前も詳しいのか?」
 我輩はちゃねらも何も姉貴がPCに向かって何かやって居ると知っておるのみでその内容など知らぬ。知らぬ所か其にかまけて遊んで貰えないのが不服なくらいだ。いっそ止めて頂きたい。
 「成る程、じゃあ俺の怖い話も新鮮だろう。今日はな、呪われた旅館の話だ‥」
 アニキの怖い話は面白いとしか思えぬものなのでそれなりの娯楽とも云える。只真面目に聞き、アニキの怖そうな顔に付き合うのが少々難儀ではある、実際それ位かれの話は面白い。話が面白いのもあるだろうが、かれの声色などがなかなか、人間の言葉が出来れば芸人にでもなれそうだ。
 「と、いう訳でな、番頭が開けて入って行った部屋と見られるものは物入れで人なんて入れる場所じゃなかったのよ‥」
 「ふーん。じゃあ、その怪しい番頭は何処へ行ったのだろう。怖いね。」
 「お前は馬鹿か!何処へ行ったのかじゃなくて奴は霊だったのよ!これだから唯物論野郎は下らねえ」
 「なる程、しかしアニキん家には大学生の兄さんがいるだけあってもの知りだね。怖い話も教えてくれるのかい?」
 「啓介なんぞ弟分よ!奴の姉ちゃんの須磨子が俺に話をしてくれるんだが上手いもんだぜ?」
 なんでもその啓介氏の姉ちゃん須磨子嬢はPCでやたらと怖い話を発掘して来てはかれに話すらしい。どうやら一緒に寝て居る様子で羨ましい気もするが、我輩は姉貴の足を護るという役目を仰せつかってをる上、かの女の枕の辺りは本やらで一杯で潜り込む気になれぬ。
 それにしても変わった趣向であろう。猫に夜な夜な怖い話をする女人というのは、我輩なら少々苦手に感じるところである。