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 しかしマッキントッシュにせよ何にせよ、我輩が見る所、実に機械音痴の姉貴がよくそうした物を扱えるのが不思議だ。
 「里佳子さんはその前に同じ店で宮本君という男の子と知り合っていてね、この彼がプログラマーとか何とかでかの女にPCを手解きしたのさ。家にも来てね、取り敢えずいろいろ教えてくれたみたいだよ。恐るべきは妹君でその古いLC-630というマシンを里佳子さんに10万で売りつけておいてあとは知らんぷりさ、まぁ売りつけるは言い過ぎかもね、かの女らは誕生日が1日違いだからそろそろマシンが欲しいという姉上に、では此方は新しいマシンが欲しいから援助してくれと妹君が持ちかけたわけ。ラウンジの仕事で里佳子さんはよく儲けていたからね」
 ふむ、あの妹君ならと思われる。
 「しかし姉貴はプロと知り合ったり色々だねぇ。最近は村上某しか聞かぬ」
 「プロってプログラマーだけどね。その宮本君は里佳子さんと結婚したがっていた位だ、お気の毒に。かの女はそういう人ではないのにね」
 結婚というのは人間の男女(最近はその限りでもない様だが)が番いになり家族になる事のようだが、未だそうした形になっておらぬ事を考えてみれば姉貴としては既に家族のをられる村上某等の方がよいのであろうか。解せぬところである。
 「かの女は所謂"父の娘"なのさ。この概念は少々理解し難い所があるかも知れないけど‥以前アガペーの話をしただろう?父上にとって母上は結婚しただけの相手だが、里佳子さんは血の繋がった娘であるし子供の頃から資質が似て居ったから掛替えの無い娘、そしてその様愛されて育ったかの女にとって父上こそが掛替えの無い存在なんだ。だから他人を愛するとしてもアガペでありエロスじゃないんだよ、僕や君を愛するのもそういう事さ。大体君にお姉ちゃんを自称するのはかの女が娘だからなんだよ」
 「あの妹もそうかい?ちと違う気がするが結婚してない」
 「かの女の事までは知らないよ。妹君とあの母上は別種さ」
 別種と云われれば確かにそのようにも思えるがよく解らん。我輩の母は未だ知る所の唯一の暖かい愛の人であったが、最近では姉貴も暖かく若しかしたら唯一の愛の人のようにも思える。