.23

 亡霊の何とか云う板では素人の撮ったヴィデオも観る事が出来、国内だけで無く世界の同族の活躍も識る事が可能で中々に愉快だ。
 「これも永久機関というやつなのかい?」
 「永久機関だと!?何を云ってるんだ」
 TVも姉貴のPCもコンセントから電力を得て働いてゐるがその板には何もそういう仕掛けが見当たらぬ。機械にも亡霊があるのであろうか。
 「ハハ、ちゃんと先生の孫にも返してやっているしそこで充電もされているさ。しかし君はまたおかしな物言いをする。どこで永久機関なんていう奇妙なヴォキャブラリを得たのだ?」

崇拝のおもいは
凍てついても氷らない
我が永久機関
冥王星に微笑む
カロンの裏側にて

 「よくは解らんがこれは止まらない機械という事ではないのかい?」
 小さなうす碧の紙切れ、其の表面には白い薔薇が印刷されており、裏側に斯様書かれてをるのを亡霊に見せてやる。すると彼は面倒臭そうに其を受け取るや、然し大笑いである。
 「これは多分、里佳子さんが誰かに届けられた詩なんじゃないか?ハハ、何処でこんな物を見付けた?こりゃ面白い!」
 「よく覚えておらぬが寝床を転がっておったら出て来た。それで君の板の事を思いだしたのさ。では永久機関とは何なんだい」
 永久機関とは成し得ぬ事をしかし成さうという一種の概念であり機械其の物はどうでもゐいと云う。で、有る為らば錬金術思想のようなものかも知れぬ。概念でありしかし他を生み出す。
 「ジョルジュ2世はいい生徒だな!先生に紹介したい位だが、まぁさう云う事さ。しかし斯様な名文を寝床の紙屑にして仕舞うとは里佳子さんは愈々薄情なのか冥王星が気に食わなかったやらハハハ」
 「否然し寝床で読んで大切にし過ぎて本の山に紛れてしまったかも知れぬよ」
 「君は‥里佳子さんを余程愛して居るんだな。羨ましい、僕もかの女と暮らしたかったものだ」
 とは言え若しも亡霊が生きてここに居れば我輩は何処か他所に貰われて行くなり、兎に角姉貴には逢う事が無かったのであるからそこは羨ましがられても致し方のない点だ。其処で先日のマルとの邂逅を報告する。

 「ふぅん。マル君とやらは余程に森という家の爺さんに裏切られたのが悔しいのだろう。善くしてもらって居たのだろうね」
 「いや、悪口しか聞かぬ」
 「君は中々の慧眼であるのに、想像力が無い。怪談が理解出来ぬのもそこだろう。アニキ君の云う唯物野郎も尤もだ」
 行き成り怪談の悪口をされて我輩はあまり面白くなかったが、想像力というのも解らぬので此処は一つ亡霊の話を聴く。
 「好くして貰ったものに好くされなくなれば悔しいだろう?」
 成る程、我輩が若し姉貴やこの家の誰からも嫌われたら。然しそれは余程に思いつかぬ。さういう所が亡霊の云う想像力とやらかも知れぬがなかなか思いつかぬ、しかし其れは悔しいと云うより哀しい事の様に察する。
 「君は好い奴だな。流石はジョルジュだ。僕も先生を喪い追い出されて折は哀しいばかりで悔しいなどとは思わなかったさ」