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 摩耶観光ホテルには、未だ姉貴が学生だった頃『ハラハラ大集会・反日武装戦線狼を思い出せ!』というなんともおどろおどろしい会に出た時に知り合った松野君との山登りで出会う。
 因みにその会に姉貴と松野君はバンド臨時要員として参加したのみで全く反日でも『狼(さういう組織があった)』のシンパでもなかったのに何故かそこに居たという感じであらうか。その時、姉貴は『ミルク缶』という詩というかヴォカリストが書いた歌詞に曲をつけたり『獄中メッセージ』のコーナーの音楽も準備、あらう事か大道寺という輩のメーッセージを読み上げるという活躍をしたやうだ。当然、公安にやたらと声を掛けられるがかの女が単なるミーハーの部類と判断されたのかそれは直に止む。
 松野君は他でもバンドをやっており音楽に詳しく(と、云っても偏ってはおるが)姉貴にちょこちょこカセットテープを渡したりなど、これはオルグというより他の意図があったやうで仲良くなった。そして
 「私が貴方を好きなら迷惑?」
 という姉貴の恐るべき申し出に松野君は
 「迷惑じゃない」
 と、応えたと云う。姉貴は『狼』より若しかしたら恐ろしい。

 そんなちょっとよく解らない経緯で親しくなった松野君に永遠の友情の御呪いをしようと持ちかける。それはどうするかと云うと"茎が対になった桜の実を夫々食し後、その種をお互いの名を書いた紙に包み絶対に倒れそうにない樹の根本に埋める"というもので、然様かの女達は山登りに出掛けたのである。斯様な酔狂に付き合う松野君も松野君であるがかれは恋していたのかも知れぬ。
 さて目的を果たし、しかし其処で引き返さず山頂を目指すとそこにあったのが摩耶観光ホテルであった。
 当時は未だ何かに使用されていたらしきそこは充分に廃墟めかしくも非常灯だの何かの販売機などの灯りが点いており人の気配もあった事からかの女達は感銘を受けながらも去った。

 そして後々廃墟を調べるやうになった姉貴は其れから20年程経って当時ネット(PCではなくネットらしい)で知り合った女人、うささんと、改めて其処が廃墟となって居るというので探検に出掛ける。
 廃墟となった其処は立ち入り禁止となっておったが2人は何とかケーブルカー職員の目を誤魔化して山道に入り其処へ向かい到着すると中々に本当に広大で古めかしい美しい場所であった。
 姉貴としては客室を探りたかったが、それはうささんの反対により実現しなかったという。
 「不審者が居ったら怖いやないの」
 というのがかの女の意見であったがかの女達こそは不審者でもあるのだが姉貴は其れに従ったようだ。
 それより間が抜けているのは姉貴が帰り道で足を滑らせ、浅いが谷に落ちた事であらう。うささんはとても心配し携帯電話にて連絡をしたが姉貴としては勝手知る山の事であるし兎に角、山を下って行ったのだが中々の冒険であったらしい。