14.悪評

 うっかりする事なんて誰にもある事だろう。俺は村井の庭からの帰り、自称"芸術家"の婆に布団叩き(というらしい代物)で殴られそうになり慌ててパーキングに飛び降りた時に左足の爪が柵にひっかかった。
 あまりにも痛いし、この足が動かせないと何があるか解らない。姉貴とて信用は出来ない‥これは野生の勘。そこで是まで入り込んだ事のない、あの大嫌いな「妹」の部屋の奥に潜む事にした。

「ジョルジュ!ジョルジュ!」姉貴が俺を探している。
 かの女は割とあっさり俺を見付けたが、こっちは出て行くつもりなどない。足が痛い今じっとしているがいいだろう。

「でも元気そうじゃない?」
「まあね。姉貴に箱に詰められ嫌な臭いのする所に‥」
「あら、病院でしょ?いいじゃない、痛いのを治してくれるんだし、治ってるんじゃないの?」
 ライザは俺の左足、抜かれた爪のあとを嗅ぐ。ライザ以外からそんな事をされたら殴るところ。
「それより貴方、私の事を丸顔の虎や態度の大きい白灰に喋ったの?」
 喋ったも何も先に奴等の事を俺に話したのはライザの方じゃないか。
「そりゃ、君の家の事を奴等が知っているか尋ねたさ。家に帰りたいんだろう?」
 ライザはすっと座り直すと問題は貴方のママよ、と囁いた…姉貴の事か?確かに姉貴はよからぬ噂がある…バッキーやダニーによればネット弁慶であるとか服装がおかしいとか‥しかしそれと俺とは関係ない。
「そう?でも私を保健所に持って行ったりしないかしら?」
 おい待てよ。姉貴の話ではそういう事をする輩を批判し糾弾するのが姉貴や2軒隣の林田(意見は違うようだが)であって、寧ろ適当に犬を飼っては他所にやったりするのはライザの家の奴等だ。
「本当?今のオーナーは貴方のママを批判してるわよ?貴方を放し飼いにしているし、その為にこのアパートの工事の邪魔になったって」
 そんな事を言われているのか。そういや確かにアパート外装工事中、廊下の塗装やなんやで俺こそは迷惑を被ったし、姉貴は姉貴で林田と共に管理人に喧嘩を売っていた。その時の管理人というのが極悪なヤツで…
「そう?でも貴方のママって不気味な感じよね」
「そうかも知れないが、かの女は‥というか君に姉貴を批判される覚えはない」
「最近TVに出ている禿の犯罪者を見る度、今の家の奥さんが"205号室のあの人に似てるわね"って」
 禿の犯罪者というのは都知事の事だろうが、それは寧ろもう死んでいない姉貴の父親の事じゃないか?しかし彼とてもっと恰好はよかった。
 犬が老いてよく吠えるようになったからといって手放す一家はやはりゴミ連中。
「僕は君の味方になろうと思っていたが、ちょっと考えるよ。じゃあな」

 家に帰ると姉貴が昔の遊び仲間から来たメールに添付されていた画像を見て笑っている。
 画像は姉貴がなんだか真剣に棒を構えている所だったが、それは確かに禿の都知事に似ていた…