17.見舞い

「お前も馬鹿だな!いちいちマルの野郎の言う事なんて間に受けるなや!アイツは自分が嫌われ者だからって僻み根性でイヤな事ばっか言いやがる」
 まぁ、毎夜々須磨子ことヤツの姉貴に怪談を聞かされながら一緒に眠り、幸せな暮らしをしているバッキーにしてみれば(ましてマルから馬鹿にされている事にも気付いていない)そういう発想もあるかも知れない。
 だが、マルの不幸は実の所不幸であって、結果キラワレモノ扱いは如何なものか。実際、人間からは嫌われていない。いんてり屋の禿や猫愛護家の林田はヤツの事を「武闘派なのよね!」と援護し、養ってやっている(そのおこぼれに与かった事もある)。話をしても、ある意味バッキーよりよっぽど論理的だ。
「だが、姉貴が自分の母親が入院した事で気楽げなのは事実だぜ?」
 悪いけどよぉ…とバッキーは村井ん家の庭を見上げながら言った‥
「お前んちの母ちゃん、村井の婆さんよりヨレってるぜ?年はそうでもないだろうのに1人では歩けないじゃないか。あれじゃあ一緒に暮らしてるお前の姉ちゃんも大変だと思うし、それが嫌で妹は出て行ったんじゃないのか?」
「でも母親だろう?俺がもしずっと母親と暮らしていたら何があっても離れたりしないさ」
 俺は黒くて暖かい母親を思い出したが、今では姉貴がいる。
 姉貴が俺を見捨てる事なんてないと思うし、俺だってかの女を見捨てない。毎朝、腹が減って起こそうとしても起きない姉貴だが。
「ゆーて、お前、逆に姉ちゃんが寝たっきりになって腹が減っても誰にも飯をもらえなくなったらどうするよ。お前に出来る事なんてないぞ?ウチの須磨子は若いし元気だけどお前んちの姉ちゃんもいいトシだろう」
「うるせえ!姉貴は元気だし怪談なんかには興味がなさそうだしな!『闇金ウシジマくん』とか難しい漫画を何度も読んでるさ」
「ハハハハハ〜漫画を何度も読むとはウチの弟分といい勝負のボンクラだな。だいたいウシジマなんてマジで読んでるのが馬鹿だわ」
「その弟分はネットで姉貴に負けてるじゃないか!ボンクラはどっちだよ」

 母の手術は昨夜恙なく終わり、なんせ近所の病院であるからして今日も見舞いに行った。
 土産に『いちごミルク』を持って行ったら「塩バター飴がいいのに」との事。知ってはいるけど売ってないんだよ‥