11.キャバレー

 かの女はぐるりと一回転して伸びをした。
「私の住んでいる所。でもあなたも住んでいるんでしょ?」
 そう言われてみればそうだが、じゃあ何が知りたいというのかがよく解らない。
「私の名はライザ。なんでか解る?」
 ライザと言えば姉貴のこれも何十回も観ている『キャバレー』という映画に出て来る歌の上手い女優、ライザ・ミネリだろう。あと、これも姉貴の大好きなペットショップボーイズというのと組んだアルバムもある。きれいな声だし俺も好きだったが、最近聴かせてもらえていない。
「やるわね!あなたのオーナーって趣味がいいわ。」
「趣味がいいかどうかは解らないけど、じゃあきみは歌が上手いのかい?」
 かの女・ライザは尻尾をちょっと振って‥あなた馬鹿じゃないの?歌が歌える猫なんて知らないわ。私のママがライザのファンだっただけ。でももう会えないかも知れないわ…こんな所に連れて来られて、その上みゆちゃんなんて呼ばれて。ところであなたの名前は何ていうの?
「ジョルジュ。フランスの哲学者の名前らしいけど、ちなみにこれは僕の姉貴が命名した。きみはママに名付けてもらえていいね‥僕はママに名前を付けてもらう前に別れてしまったからきみの寂しさも解らなくもないよ」
 ライザは見れば見るほど綺麗だ。ふわふわとした長毛も黄緑がかった瞳も。
「ママっていうのは私を母親から引き取ってくれた人間の事、あなたの姉貴さんと同じ。でもジョルジュっていい名前ね」
「ライザの方が綺麗な名前だと思うよ‥」
 あなたって紳士ね、とかの女は言って俺の体をくるりとさすって言った。
「ところでさぁ」