悪人は誰


 ライザの話であまりにも腹が立った俺はバッキーに噂の真偽を尋ねてみた。本当ならマルの方がこういう話には詳しいと思われるが、ヤツにかかると何もかもが喧嘩の対象だ。そういやライザにボディガードを申し出たという話を忘れていた。今度会ったらからかってやろう。
「…どうだろうな。俺はこのボロアパートの住人じゃないからそこんちの事は詳しく知らんね。でもネットでは喧嘩ばっかりしてるし、現実でもそうなんじゃないのか?だいたい地域猫ボラの林田とは仲良さそうにしてるが、あいつにしても裏ではいんてり屋のババアと陰口たたいてるぜ」
 いんてり屋のババアというのはスキンヘッドで声の悪いヤツだ。俺も一度いんてり屋でオヤツを貰った事がある。あと林の爺所から追い出されたマルを養っている。そう悪人とも思えない。
「だからよー、基本"猫飼いNG"のアパートで、お前の姉ちゃんがお前を好き勝手に放し飼いしている事が問題なんだろうよ、知らんけど」
「それで悪人扱いか。じゃあ、ライザん家で柴犬を飼って」
「だから吠えるからどっかにやられたんだろ?」
 これではどう考えてもライザの家人が極悪であって俺の姉貴が悪人とは思えない。

 矢張り金か。全くこれだから困る。
「家賃という固定費が」…「いろいろ考えて4kgも痩せたよ!ナザちゃんが代表取締役になって仕事もしてくれるならetc,etc..でなきゃ、もう経営は続けられないし」
 わたしはウーン、と悩むフリをしておいたが、実の所ウチ、というかソモソモ父が設立したこの会社『X』は休眠時期があったので消去扱いとなっているというのが根本的に「嘘」で今でも登録がある。
 即ち上司が現『X』を解散してくれたら、寧ろ本来の『X』で新しい業務を始めるだけのことだ。

「ジョルジュ!怪我してる所を舐めたらだめよ!治らないわよ!」
 姉貴は後足を舐めようとした俺を抱き上げてくれた。