12.好きになること

 ライザの話によると「丸っちい虎がやたらと怖い話をしてくる」これはバッキーだな‥「あと白にグレイ斑のマリリン・マンソンみたいなのが用心棒を買って出て来る」ふん、マルだろう‥との事だった。やっぱりあいつらは馬鹿だ。マルの用心棒はよく解らないが、バッキーは怖い話がなんでウケると思っているのかが愈々謎だ。
「それで、今の家の人があんまり外に出してくれなかったり。困るわ」
「ほっとけばいいじゃない?まぁ皆、ライザさんと仲良くなりたいんだろうけどさ。綺麗だもの」
「あなたも私と仲良くなりたい?」
 それはどうだろう?俺は外に出るのが好きだから訳の解らない奴等との社交もしているが、誰かと仲良くなりたいなんて思った事はない。姉貴で充分。
 それにこれはもう100回以上観たに違いない『覇王別姫』という中国映画に出て来る蝶衣という女形が大好きだし音楽ならライザ・ミネリもいいが『サウンド・オブ・ミュージック』に出てくるジュリー・アンドリュースが歌う「わたしのお気に入り"My favorite things"」がそれこそお気に入りだ…
「なに?そのお姉さん映画観たり音楽聴いたりばっかりしてるわけ?なんだかママみたい。あなたは流石ジョルジュね、その哲学者はしらないけど」
「僕も哲学の事なんか知らないけど‥でもライザさんと仲良くなれたらいいとは思うよ」
「じゃあ、私をママの所に連れて帰ってくれない?」
 これはいかにもマルに似つかわしい仕事に思えた。
 奴は矢鱈と喧嘩を売る為に行動範囲が広いし、人間の不人情への革命精神の塊ともいえる。