ムスク路地.3/大吼一声

 「ところでウチのインドマンションの3階に店が出来てさ!アンタんちの姉さんもよく来てるよ!」
 ヒトがトイレしている時に話しかけてくるのはインドの宝石商ん家の偽アビシニアンのウリカ…美形だからトイレ中に話しかけて来ても怒りはしないが、こいつは確かに美形、しかし所詮はミックス。こいつん家で扱われている宝石とやらもオモチャに違いない。
「姉貴はルビーと売りつけられそうになった石をパープルサファイアと見抜いた。ゴミは買わんよ」
「違うよ!店はインドの食料品屋だし、アンタの姉さんが来るのはマンションの1階に捨てられた仔猫3匹が目的だよ!それがグレイの仔猫達で!アンタ捨てられるよ!」
 ウリカはまぁそういうやつだ。ヒトが嫌がりそうな事を言おうとそれだけに頭を使っているような性悪、こいつこそよくも捨てられないものだと思うが本人によると家族からは宝石のように大事にされているらしい。

 鉄色と黒の螺旋になったステアをめぐる形の住居はどれもドアが開いていて3階の小さな旗が立てられたドアを、しかし、誰も見てはいない。インドの食料品には興味がないのかもしれないがこそこそと喋っている。事件でもあったのだろうか?
「捨てられたにしてはよく太っている仔猫たちが‥」
 郵便受けのあるフロアで遊びまわっている仔猫達。
「どちらかのお宅の仔猫ではないかと思います!ペット禁止でないのなら様子を見ては如何ですか?!」

「お前の姉さんの自転車に"大吼一声"ってステッカーが貼ってあるけどそれ程、大した事は言わないな」
 インドマンションの其々のドアが閉まった後、灰虎のダニーが俺に耳打ちした。