8.迷路の不満

「ダニーんちのパパが仔猫たちを飼うんだってよ!」
 それがどうした。俺もバッキーもウリカを無視してだらだらしていた。インドマンションの猫の誰かが去勢もしていなければ避妊もしていなかっただけの話。
「ダニーが当惑してるわ」
「そういや仔猫達はグレイの縞だったな、ダニーの子なんじゃないか?」
「じゃあ避妊してない女が産み捨てていったわけ?信じられない!」
 そこでバッキーが愈々うんざりした様子で言った。
「知らんよ、そんな事」
 だいたいインドマンションは金持ちが住んでいるという事だが20年前の震災で崩壊はしなかったものの見た目は廃墟だ。だのに地域ではデカい面をしている。真面な猫の扱いもしていなくて不思議じゃない。
 バッキーも俺も震災より後にここらに来たが、どちらもそれなりの住居だ。偽アビシニアン、一見美系のウリカに誘われて行かなければあんな幽霊屋敷には行かなかっただろう。それでも住民は高慢な様子で暮らしているのだから実に奇妙だ。
「少なくとも俺を捨てて仔猫を飼おうとしなかったしな、姉貴は。よかったよ」
 俺が言うとウリカはザッザッと雑草をひっかいて帰って行った。

「ジョルジュ?ジョルジュー」とわたしが彼を呼ぶと、新聞配達の初老男性が「歌の練習ですか?」。
「違いますよ。猫を呼んでいるんです」
「そんな名前が猫に解るん?」
 解るから呼んでいる。