【番外編】GO DOWN TO JUPITER

 俺達の宇宙船『Bete Noir(黒い獣という意味らしい)』はエウロパから木星に出発するところだ。操縦者は俺、猫のジョルジュで補助してくれるのは猫のロル。
「じゃ、船長、行きますぜ!」
 船長たるnadja5は人間だが個人用コンピュータで映画を観たり、なんだか訳のわからない通信をするばかりで、何故こんな重大な任務を負った宇宙船の船長なのかがよく解らない。あと、やたらと居眠りばかりしている。俺の声にもチラッと顔を上げただけだ。
「いいから出発しましょう」…ロルが笑った。

 何年かの眠りから覚め、船長の「こっちに来て見なさい」という声でコックピットの前で木星を始めて見た時にはやっぱり驚いた。動画も見た事はあったが、目の前の大きなガスの渦は恐ろしい生き物のようだったからだ。
 この中に降りて行くのか?それも生物の存在を確かめに?俺はつくづくこのミッションに参加した事を後悔したものだった‥
「とりまココ=エウロパで2日間休憩して、それから出発するからね!」

 俺とロルは猫だが、訓練を受けているから喋れるし、ボンヤリともしない。エウロパでは殆ど眠っていたが、それは船長の計らいで眠らせてもらえたという事。
「おい、ロル…俺達は帰ってこれるんだろうか?」
「え?キレイじゃない?私は早く木星のあの嵐の中が見たいな。」
 エウロパから木星の表面迄に3日はかかるし、その核心迄は1週間かかるかもしれない…いくら最先端のシャトルでも大丈夫なんだろうか…
「あんたら木星表面迄はもう自動操縦にしといていいよ。起こしたげるからさ」
 このnadja5船長が一番アテにならないんだが、ロルは軌道装置を自動に切り替えると船長の肩に飛び乗り「はーい」だと。俺も操縦システムを自動に切り替え、かの女らに着いてコックピットを後にした。

 薬が切れたのか目覚めた俺は、未だ寝ているロルを起こし、ぶつくさ言っているかの女とコックピットに。
「これが木星の嵐よ。核まではまだ日があるから交代で寝てね」
 nadja5船長はコックピットの複数のウィンドウを移動させながら嬉しそうだった。
 それはただ渦巻き流れ去るガス。
「船長、言うたら何ですがこんな所に生物など‥」
「核に近付くにつれ嵐はゆるやかになるし‥恐るべき熱もあるからね」
 俺はただただガスの嵐が不気味だったが、ロルは喜んで見ている。
「この規模のガス惑星の核心になら地球が50億年前、今の金星のような二酸化炭素と塩酸の惑星だった頃に棲息していたやつらが、もっと大きな規模でいるかもですね!」
「そうよ、ロル。私達はそれを確認しようとしているの。アンタ、賢いね!」
 ロルは俺をチラッと見てニヤッと笑った。お、俺だってそれ位は‥