16.救急車

 時間なんて俺には関係ない。取り敢えず腹が減ってるかトイレがしたいか。後は姉貴が起きているか寝て居るか。
 トイレに関しては俺がここに来た時からあるリターボックスで済ませていたが、近所の奴等と面識が出来てからは外だ。俺の領地を知らせなくてはいけないからなのだが、偶に突拍子もない客人がやって来たら部屋のリターボックスでちっこやプープをする。俺の存在を知らせる為だ。
 先日、喧しい奴等がやって来た時には姉貴が眠っていたので隠れていたが。

「なんだ、またお前の姉貴が頻拍の発作か?救急車うるさいんだよ」
 パーキングに出るとマルだ。口惜しいがこいつに口では勝てない。ヒンパクとは何だ?姉貴は寝て居た。
「なんだ、知らないのか。かの女は何年かに1回だが心臓がバクバクする頻拍の発作を起こすんだぜ?でも寝てたってなら、婆さんの方か」
 姉貴の母親は確かに年齢より老けているが婆さんとは失礼じゃないか‥でも確かにあの騒ぎ以来"ママちゃん"はいないし騒がしい奴等がやって来て騒がしい車で去って行ってから俺は姉貴と好き勝手に暮らしている。
「婆さんというか姉貴の母親が連れ去られたのは確かだ」
「ふん、それでお前は姉貴と2人でのんびりしてるのか?」
「のんびりかどうかは兎も角、姉貴は気楽そうだな」
 俺が応えるとマルは言った。
「産まれたばかりの俺と兄弟をがさがさする袋に入れて捨てた奴と同じじゃないか?自分の家族が救急車で運ばれて行ってもお前とのんびりしてるなんていうのは悪質だ。逆にお前が酷い怪我なり病におかされて病院に連れ込まれた時、かの女は家でのんびりしているかもしれないぞ?」