出会いは運命/『キャロル』

 勿論わたしはケイト・ブランシェット程の顔ではありませんし出会った相手はもっと年も近かった(2ッ年下)。ましてわたしはグラフィックデザイン事務所の見習いレベルだった。かの女は大学生
 出会いのきっかけは多分『FOOL'S MATE』という今で言えばオルタナ系というかそういうロック雑誌にかの女が「キーボード募集・出来たら作曲も出来るひと」というのを出してて近所だったので応募したこと。初めて会ったのは阪急岡本駅。
 一番の思い出はウチに晩ご飯食べに来る夕刻、わたしが西宮で各停に乗り換えてフッと見るとかの女がスヤスヤ寝てた事かな(かの女の大学は今津線で宝塚に向かう所にあり、わたしは大阪で仕事していたのでこれも西宮から各停に乗り換え)。クリムトの絵のようだった。絢爛豪華ではないけど安らかという意味で。その夜はウチでご飯を食べる約束だったので六甲駅の手前になって声をかけると
「クミ!迎えに来てくれたの?」

 もうこの映画『キャロル』は感動というよりいちいち胸が痛かった。運命的な出会いというのはあって、ひとつ間違ってそれを手放してしまうともう出会えない。ラストのキャロルの表情には爆泣きでした。

 松子もわたしも長女だったからかの女が大学を卒業とともに母親がやって来て長崎に連れ戻した。
 もしわたしがキャロルのように決断力が(あと甲斐性も当時)あれば…と思わないでもないけど、でもずっと独りで生きているしもうそれでいい。かの女はずっと手紙をくれていた。全部保管しているけど読み返す勇気が未だない。
 手紙の書き始めはいつも"Salute,ma chere"だった。
 こんな映画観なければよかったようにも思う。