P.K.ディックと頭髪問題

 フィリップ・K・ディックの小説は好き嫌いが物凄く分かれると思うのですが、わたしは好きです。ディックの小説を日本人に悪イメージを与えた戦犯はサンリオ文庫の悪訳ではないでしょうか?また訳作品が後期のものが多く難解だというのに!
...まぁそれは兎も角、その作品にある厭世観も辛い所かも知れません。面白かろうと面白くなかろうとかれの描く未来(それがまた21世紀の今読みかえすと微妙)がダーク。

(わたしは映画を観ていないのですが"マイノリティ・レポート"(元・邦題「少数報告」)が映画化されてリイシューされた短編集、割と名作集的編纂のそれ(右画像)を久し振りに読んだのですが、タイトル作で先ず主人公が"俺は禿げた。禿げて腹も出て…"とモノローグ…これは今わたしが禿げて下腹も出ている、しかし女性だから笑える所。でも40年位前にディックを初めて読んだ頃は主人公の妻なりGFが皆"すらっとした長髪の美人"というのがちょっとムッときたものです)

 話が逸れましたが、ディックの小説がダークなのは人間や現実への不信感が常に根底にあるからだと思います。
初期(中期?)の『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』などその最もたるものだと。あんなに暗鬱な話はちょっとないでしょう。『ユービック』もラストが不気味。その他の作品も概ね救いのない話が多い。

 因みにわたしは9年になる♂ジョルジュと1年の♀ロルという猫と暮らしていますがヤツラがどんな世界観で暮らしているのかが解りません。個人的にわたしと暮らしているからにはそれで満足していると思いたい所ですが、若しかしていろいろ違う考えでいるのかも知れない…猫が出てくるSFといえばハインラインの『夏への扉』が有名ですが…(ディックも猫好きだけど)
 今回読んだディックの短編で笑える一編は"水蜘蛛計画"。まぁスラップスティックというか楽屋落ちコメディ。まぁSF作家仲間で笑ったのだろうと思います。
 (ざっとこんな感じ→)未来世界では過去のSF作家がプレコグ(PreRecognition)未来予想者と考えられており、プロキシマ系への宇宙飛行が燃料問題で頓挫しそうなのでSF作家=プレコグを過去から拉致して来、解決させようというお話。さて行き先は1950年代のSF作家集会…拉致目標はポール・アンダーソンなのですが有名作家の人物描写が面白い。そこでハインラインは「ハインライン?かれはミルドレッド(クリーガーマン)と猫の話をしにどっかへ行ったっきり見かけないね〜」と言われてる。まぁこの集会に集まっているメンバーはニューエイジ系なのだけど、ディック、そりゃ失礼だろう…自分の事は結構宣伝してるのにさ(アンダーソンに「神経質そうで会場に入ろうか入るまいかオドオドしていた」と言わせ何作かちょいっと語らせてる)。
 さて問題の部分はあっさり解決(アンダーソンが)するのですが、所謂タイムトラヴェルのパラドックスでオジャン。というか"時空移動機が作れてなんでSF的発想がないのだ"という謎の未来…そこでは髪を生やしているのは異端人で男女ともに皆ツルッ禿に剃っているのが常識(江戸時代ちょんまげを思わせる)。
 これも長髪(ビートルズのレベルでも長髪だった!)がカウンターカルチュアのファッションだった当事('50年代〜)としては笑うとこでしょうか。

 ただ、わたしは禿げててもバンダナや手拭を巻いたりウィッグを被ったり...つか父が禿げて(所謂M字後退)いたのであまり気にならないのですが若くして毛が薄いというのは男性にとっては大問題の様子。ある程度ファッションに自由がきく職場ならいいでしょうが、うるさい職場だと「ええい!剃ったれ!」というのは難しいみたいだし。ディックは後退型の禿っぽいですが長髪が流行りの時代、どんな髪型だったのか?
 海外はどうか知りませんが、この21世紀の日本はディックが想像した以上の馬鹿らしい未来かも知れません...限定されたファッションや髪型でいないと異端視される。アルファケンタウリ・プロキシマ系に思いを馳せる所か惑星・地球の中でも近隣が見えない世界...