出てきたライター

 2年前に亡くなったひとがいる。恋人でも愛人でもなくパトロンのようなひとだったけど、一種の友情のようなものがあった。
 その人とは月に2〜3回逢っていたのだけれど、絶対にこちらからは連絡しなかった、彼からお誘いのコールがあるだけ。
 そして行き先はいつも同じホテルで、そこにはしゃれた灰皿とライターが置かれていた。彼は嫌煙家だったので一緒にいる時に煙草は吸わなかったけど、実はヘビスモのわたしはいつもこっそりとそのホテルのライターを持ち帰っていた。
 そのライターの一つが冬物のジャケットから出てきた。泣きそうになった。