My Ideal/グレン・グールド

Glenn Gould 25.Sep.1932〜 4.Oct.1982

 私が一番熱心にピアノ、それもクラシック曲を勉強したり練習していたのは10代の前半の5年程度だったのですが、当時はあまりグールドを好きではありませんでした。静かな録音では雑音(鼻歌)が目立つし、何よりスコアに忠実ではないから演奏のお手本にならないという幼稚な理由で。ただ唯一お気に入りだったのは母親方の叔父がくれたベートーヴェンの有名なソナタが3曲入ったレコード。なんと叔父は「このレコード嫌い」だからという理由で私にくれたのですが(!!)それがやはりB面に収録されていた"Apassionata(熱情)"の演奏スピードやグールド一流の演奏スタイルにあったようす。グレン・グールドの演奏、というか録音されたそれが独特なのはどんな複雑な音楽でもすべての音が独立して聞き取れるところにあると思う、だから寧ろジャズっぽい演奏といえるかも?例えばマウリツィオ・ポリーニなんかだとストラヴィンスキーなんかを弾いてもとても流麗で気品がアル‥ってこの感想にはルックスが関係しているような気がしないでもないんだけど。

 そんなグールドと再会したのは6年位前、NHK-BS2で放送された『グレン・グールドコレクション』という番組によって。主にCBC(カナダ放送)のアーカイブ映像で構成されたその番組は長大、いろいろな年代のグールドを見る事が出来る秀逸なもので、特に彼自身がB.モンサンジョン相手に自分の音楽性を‥ピアノを前にして弾いてみせながら‥解説するシーンは興味深い。その他ラヴェルの"LaValse"を彼のオリジナルアレンジで弾き切ってみせている等、録音として残っていない演奏もあってスゴい!このビデオを私は多分『インタビューウィズヴァンパイア』より遥かに何度も観ていると思うし、その翌年2002年は彼の没後20年というのでいろいろな書籍も新刊されたり再刊されたりでその殆どを読みもした。そこで思い知ったのは「ニンゲン、努力しても自ずと限界ってものがある」ってコト。私がもし500年生きてもグールドのようにはなれないし、寧ろ遠ざかっていくだけに違いない。ちなみにグールドの遺した言葉に『芸術が目指すのは瞬間的に放出されるアドレナリンの解放ではない。驚嘆と静寂の境地を生涯かけて作り上げていくことだ』というのがアルんだけど人生の目的のなかに芸術があるってだけでもスゴいと思う。