Aさんのこと

 今の職場に採用されたのは今年の5月の事。
 41才にもなった、それも16年程もブランクのある人間をデザイナーとして雇う事務所なんてナイって思ったし、実際自分でも自信がなかったから面接に行くのも気が進まなかったけど行ったのはこの話がAさんからのオファーだったから。
 Aさんと知り合ったのは正しく16年前に辞めた装粧品メーカーでさるデザイナーズブランドのヘアアクセサリーを担当していた時。彼は自分の工房を持ったクラフトマンでキャスト(合金)の仕事を担当する仕入れ先、でも年齢が近く話がし易かった事もあり(+勿論、彼の技術もあって!)本当にイイ商品が作れた。
 でも時おりしもバブルが本格的に崩壊に直面しようって頃だったし私はアッサリそのメーカーを辞めて水商売に転向した...っても自分で店やるとかじゃなくホステスなんだけど...っていう辺で専門学校の頃の友人や仕事関係の知り合いは微妙な表情になったりしたけど、でも基本は営業という意味ではホステスもデザイナーも一緒と私は思ってたから平気だったし今でもその考えに変わりない。
 さて、そんなこんなで16年の間もの凄くイイカゲンな暮らし(2回程結婚ドタキャンもあり)してた私にAさんが唐突に連絡して来たのは『真珠夫人』やってた頃だから2年前かな、その時は私が曾て勤めてたそのメーカーが倒産したっていう事の報告と「僕Sさん(私、な)辞めた事暫く知らなくってさ」+また飲みましょうみたいな話。
 私としてはAさんが連絡してくれた事は嬉しかったけど、もう世界違うしなって感じでそのまんまになった。
 それが今年の4月になってイキナリ「Sさん、またアクセサリーやらない?」。
 ほぼ即答で「やらない」ってか「やれない」ってか「この年ではやりたない」みたいな事を言ったらその翌日「年齢関係ないって言うてはるし...断るにしても一応先方さんと話してくれへんかな」。
 で、その『先方さん』に電話するとその段階で「面接に行かなアカン」空気になり何年かぶりで大阪・ミナミに。
 その日、買い付けあるし...というAさんと面接の後、本当に16年振りで会うと全く変わってない好青年っぷりに驚いたけど、それより驚いたのは面接の雰囲気はともかく「やっぱ自信ないわ」という私に彼が「でも、そんな事言うてもう一生アクセの仕事しないつもりなん!?」って言った事。ちょっと大きなお世話って言うか何でそこ迄彼が言うのかよく解らなかった。
 でも結局私は採用され、先日Aさんと一緒にパーツ屋に行った時、その道々「僕は学生時代からアクセサリーの仕事するって決めてそういうスクールに通って...」って話をした時ちょい目からウロコって言うか、彼がにとってアクセサリーの仕事って絶対的なんやなって気付いたし面接の日の発言にも納得出来た。
 しかしそこ迄『やりたい』事が若い頃からハッキリしてて、その上それを実現させているAさんってすごくラッキーな人だなって思ったしそう言うと「うん、僕も自分はラッキーと思う」と言った。羨ましく思った。